人が往々にして積み上げてきたものに「しがみつく」のは何故だろうか 

積み上げてきたものにしがみつくと反って崩れる

 自分史動画・終活の動画の撮影でお会いしたお客様の中には、何かに「しがみつく」ということと無縁の人生を歩んで来られた方がいらっしゃいます。
人生の節目におけるご自身の出処進退というか、どちらの道に進むかという部分で、実にすがすがしい生き方をしておられます。
そのような方にお会いすると「これはなかなか出来ないことだなぁ」と思って頭が下がります。
自分自身もできるだけそうありたいものです。

 寺田総務相が遅すぎる更迭となりました。
これで山際経済再生担当相・葉梨法相に続いて3人目で、いずれも地位にさんざんしがみついた上での遅すぎた辞任です。大臣本人だけの問題ではなく、むしろ岸田首相の判断が遅いことで問題が長引きました。
しかも、これで終わりではないとの観測もあるようですね。

 今回は政治についてではなく、「しがみつく」ということについて書きたいと思います。
しがみつくのはなにも政治家に限ることではなく、私たち一般市民もよくあることだからです。

 行動経済学に「サンクコスト効果」という用語があります。
「サンクコスト(sunk costs)」とは埋没費用と訳され、事業に投下して失敗し回収が見込めなくなった資金のことをいいます。
早めに損切りをすればそれ以上無駄に資金をドブに捨てることはないのに、往々にしてなんとか損失を取り戻そうと資金投下を続け、結果的に損失をいっそう拡大してしまうことが「サンクコスト効果」です。
人の心理として、そういう経済活動をしがちであるという学説ですね。
これまで積み上げてきたものを今さら無駄にしたくないと思ってずっと積み続けてしまい、結果的には積み木のように、やがて崩壊します。
途中でやめておけば全部崩れることはなかったのにです。

 「サンクコスト効果」について、よく引き合いに出される事例が英仏政府による超音速旅客機コンコルドの共同開発の話です。
夢の旅客機と言われながらも、莫大な開発費用に対して燃費がすごく悪いことや乗れる人数が少ないことなどで採算がとれないのは途中で分かっていたのに、開発をやめずに大量の資金投下を続けたあげく、わずか16機で製造が打ち切られるとともに数兆円もの赤字を生んだと言われています。

 経済学ではお金の話ですが、現実世界ではお金以外でも似たようなことがたくさん起こっています。
よく政治や行政の問題で山ほどニュースになっていますが、民間企業でも起こっています。そして個人も。
組織でよくあるのは、責任者が立場を追われるのを恐れて責任を認めないとか、プライドのせいで意固地になるとかですね。
個人でよくあるのは、株などの投資で損切りができないとか、やはりプライドが邪魔して考えを改められないとかです。

 傍から見ればしがみつき過ぎだというのが明白でも、当事者本人はいつまでもしがみつこうとします。
その原因は、当事者自身がそれぞれの事情に縛られていて考えを改めることができない一方で、そのような事情と関係のない部外者は抱えているものがなく自由に正しい発想ができるからかも知れません。
ですので、最近の政治家を批判している人でも、置かれた状況次第では自分自身もしがみついてしまう恐れがあるのではないか、抱えている事情に縛られず正しく判断することは意外に難しいのではないか、という気がしていますが、皆さまはどう思われるでしょうか。

 何かにしがみついていることがありましたら、一度手を放してみるというのはいかがでしょう。
もしかすると、気持ちがずっと楽になることがあるかも知れません。
それが人生の節目のひとつになるかも。その際はぜひ、自分史動画・終活の動画でお話しください。