自分史ビデオとの接点(8)ドキュメント72時間歴代ベスト10スペシャルの最後に仕込まれた映像
自分史ビデオや終活での動画を作るときの視点として、参考になる事例をご紹介する「自分史ビデオとの接点」シリーズ。
第8回はNHK「ドキュメント72時間歴代ベスト10スペシャル」(2022年8月12-13日放送)の第1位に選ばれた作品の放送内容についてです。
思わず涙して「これこそがドキュメンタリー」と感動したラストシーン
ランキング上位にどれを選ぶかは人によって好みがあるので、結果の順位にはいろんな感想があるかと思います。
私にとってはこの6時間の放送で最も良かった場面は第1位の「最後の最後」でした。
ここからはネタバレになりますのでご注意ください。
1位は「秋田 真冬の自販機の前で」(2015.3.6放送)でした。これは上位に入ってしかるべき名作だという方は多いでしょう。
私も当時放送を見た時からすばらしい作品だと思っていましたし、放送後の反響もすごかったと記憶しています。
その後、このうどんの自販機をはじめハンバーガーや瓶入りのセブンアップなど昭和レトロな自販機が再注目されて話題になり、さらに最近の自販機ブームにつながっています。
ベスト10のうち「10位 恐山 死者たちの場所」「7位 樹木葬 桜の下のあなたへ」「6位 長崎 お盆はド派手に花火屋で」「3位 海が見える老人ホーム」の4つもの作品が「死」ということについて考えさせられる内容でした。
前の3つは肉親の死後に関係する話ですし、老人ホームも、登場していたうちの何人かが放送5年後の今年の追加取材でお亡くなりになっていることが紹介され、「死」というものを強く意識させられました。
お盆の時期だからこのラインアップになったわけではないと思いますが、結果的に「家族」「老い」「死」について改めて考えるというお盆らしい内容にもなっています。
それ以外の各作品はどちらかというと "知らない世界を垣間見る" "その世界でひたむきな人たちのいまを切り取って見る" というような印象です(「9位 夏コミ!"日本一"のコンビニで」「8位 北の大地の学生寮 」「5位 日本ダービー大行列」「4位 阿蘇・ライダーたちの夏「10年に一度の撮影会」」「2位 大病院の小さなコンビニ」)。
どの作品も、出ている人たちの熱心な姿が印象的です。
これらと比べると1位の「秋田 真冬の自販機の前で」は少し違っていて、人生の長い時間軸を感じます。
この自販機のうどんを何十年も食べ続けて、時には辛い気持ちを癒してもらいながら、自分と向き合い懸命に生きてきた人たちの人生が浮かんできます。
これは自分史動画と同じ視点でもあります。
それと老朽化して故障が増え、修理部品も手に入らなくなっていつ廃棄してもおかしくない中で、なんとか面倒を見ているおじいさんがいます。
私はこの作品のそういうところが好きです。
これと同じ自販機のうどんをどこかで食べたことがある方はお分かりと思いますが、まことに質素な味わいです。
それでも、港のあまり人けがない一角にひっそりと置かれていて、裏手には屋根付きのテーブルがあり、夜中でもひとりでふらっと立ち寄って食べられるので、「うどんだけではない温もり」を求めて人がポツポツとやってきます。
そういう人たちの映像を見ていると、この場所が長い間、隠れ家、避難場所、癒しの場、静かに自分を見つめる場所、というような重要な役割を果たしてきたことが分かります。
家族や大事な人を連れてきた人が数組いました。自分史動画と同じ視点でもあり、好きなシーンです。
自販機のことを教えたかっただけでなく、自分がそこでうどんを食べながら懸命に生きてきたことを分かってほしかったのではないかと思います。
吹雪の中、小学5-6年生くらいの男の子を連れてきて、頭に降り積もる雪を掃ってやりながら一杯のうどんを二人で分け合って食べていたお父さんには泣けました。
この子はまだお父さんの意図が分からないと思いますが、お父さんがこのうどんを長い間食べ続けてきたことは覚えているでしょうし、いつかはこの時のお父さんの気持ちに気づくのではないでしょうか。
この作品が全編再放送されて、いよいよこれで6時間の放送も終わりかと思った矢先、その後追加取材された映像が紹介されました。
ひとつは放送翌年の2016年、管理していた方の高齢化で手間のかかる管理が難しくなり、この自販機が廃棄となってトラックで搬出されていく場面です。
毎年暮れにランキング番組が放送されてこの作品もよく登場するので、これは以前にも紹介されていたシーンでした。
そのあと出てきたのが6年後の今年に行われた追加取材。
こんなシーンが最後に仕込んであったのか!と完全にやられました。
自販機コーナー全てが撤去され、駐車場に変わってしまった映像が映されて「ついに跡形さえも無くなったか」といっそう落胆させられてから、それに続いて現場の前に止めていたトラックの人ヘのインタビューが出てきます。
するとその人は「道の駅ってあるじゃない、そこ!」と近くの建物を指さし、そこにうどんの自販機があると言います。
カメラが行ってみると建物内に同じ種類のうどん自販機コーナーが設置され、食べる場所も置かれています。
この港のレガシーとして蘇っているのです。
そのうえなんと、当時管理していたおじいさんもお守役で雇われているではありませんか。
地元の多くの人たちがなんとかしてこれを復活させようとしたのでしょう。
予想外のハッピーエンドに心を打たれて、もう号泣でした。
自販機の話のエンディングとしても、また6時間の放送全体のエンディングとしても最高のシーンで、これこそがドキュメンタリーですね。
番組の中でインタビューされる人たちは普通の一般市民で、それがいい部分ですよね。
これだけ多くの普通の人が番組で普通の話をして、それが見ている人の心に響くのが、ドキュメンタリーの醍醐味かと思います。
あなたの人生を支えた食べ物や場所などを自分史ビデオで映像化しませんか
あなたも自分史ビデオや終活での動画を作って主演者になってはいかがでしょうか。
例えばこのうどん自販機に長年支えられてきた人たちのように、あなたは人生の支えになってきた特別な食べ物や大事な場所、その他大切なもの等をお持ちではないでしょうか。
もしありましたら、それに関係するシーンも自分史ビデオに入れて、それらがあなたの人生をどう支えてきたのかを語りませんか。
同じ人生の人はどこにもいませんので、あなただけの作品になります。
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吉川 友清
一分一厘舎代表。
映像作家、終活ライフケアプランナー・防災士・援農ボランティア。
2021年3月より自分史動画・終活動画制作専門の「My History Video」サービスを提供中。
制作・撮影・編集ほか、事業全般を担当している。