自分史ビデオとの接点(7)「知床遊覧船」乗船を避けることは可能だったか
自分史ビデオや終活での動画を作るときの視点として、参考になる事例をご紹介する「自分史ビデオとの接点」シリーズ。
第7回は「知床遊覧船」事故について、乗船客は何らかの事前情報によって乗船を避けることができなかっただろうかと考えてみます。
事前に気づけたかも知れない可能性はあるか
人生を振り返ったとき、ある程度納得できる内容でありたいですよね。
しかし、思わぬ事態に巻き込まれて突然命を失うことが繰り返し起こっています。
そのようなことに遭遇しそうなとき、現場での対応によってなんとか回避することはできないものか。
私たち自身による危機管理をどうしたら良いのか。報道に接するたびにそう思います。
2022年4月23日に発生した遊覧船事故。有限会社知床遊覧船のひどい実態が事故後の報道で明らかになるにつれ、このような会社が乗客を乗せて営業を続けていたことに驚かされるとともに、私たちはこういう船に乗り合わせるのをどうすれば事前に避けられるだろうかと考えてしまいます。
知床遊覧船の社長は観光船事業の素人で、人柄も周囲から信頼されるものでなく対応も杜撰だったこと、船長はこの海域では経験不足なうえ強引に行動しがちな性格だったこと、二人とも天気予報を把握していなかった可能性があること、当日の出航判断は誤りだったこと、「条件付き運航」は安全上許されない行為だったこと、会社の安全管理規程が守られていなかったこと、船が穏やかな瀬戸内海用に設計されていたこと、船の上部は横風に煽られやすい形だったこと、座礁や浮遊物への衝突事故歴があり行政指導を受けていたこと、船体に損傷があり修理したかどうか怪しいこと、GPSや衛星電話が故障で取り外されていた可能性があること、地元の漁船は予報を見て操業を見合わせていたこと等々、観光客が事前には知り得なかったとんでもない実態が、あとから次々と分かってきています。
これらのことをあらかじめ知っていたら誰も乗らなかったと思いますので、本当に無念です。
もし私たちがこの日に乗船予定だったとして、乗船見合わせにつながるわずかの可能性があるとすれば、天気予報と事務所の無線アンテナ破損の情報だと思います。
天気予報は旅行先で「晴れか雨か」「暑いか寒いか」というレベルでは誰でも気になるもの。
天気や気温だけでなく波の高さの予報を知っていたら、乗船を避けられた可能性があるかも知れません。
スマホで普通に見ることができる天気予報には波の高さまでは出ていない場合もあります。
船酔いしやすい方などが「波が高くて揺れたら嫌だな」と気になれば、TVのローカルニュースの天気予報や、波の高さが出ている天気予報サイトなどで、情報を得ることは不可能ではなかったと思われます。
そして「午後の波が3m」という予報の数字を見て揺れ具合が想像できる方は「乗ったら気分が悪くなるだろうな」と思って乗船をあきらめるかも知れません。
船に酔った経験があったり、波の高さと船の揺れ方の関係がある程度予想できる方なら・・・ということになります。
もうひとつ、無線アンテナの破損についてです。このアンテナは事務所の屋上に設置されていますが、よく見れば先端からワイヤーのようなものが建物右側の壁に垂れ下がっていて、正常な状態でないことが分かります。
船と交信するための無線と察しがつくので、これでは船と連絡がとれないはず。
なぜ壊れたまま放置しているのかと疑問に思うでしょう。
事務所でそのことを聞いたとしたら、「代わりに携帯電話があるから問題ありません」などと言われるかも知れません。
しかし旅行するなら事前に地図は見ていると思いますが、知床半島は先端に近づくほど道路がなくなり、人も入れなくなります。
だから船で行こうとしたはずです。
そんな場所には携帯基地局もないのでは?と思うでしょう。実際、ドコモで調べてみると先端に近い地域は圏外エリアで携帯は使えません。
私はアマチュア無線の免許を持っているのですが、無線の知識がある方なら、壊れたアンテナは一般的なグランドプレーンアンテナでせいぜい数万円程度のものと分かります。
にもかかわらず新品交換しないとはいったいどんな会社か?と不審に感じるかも知れません。
この2つの中で直接身の危険を感じるのは波の高さの情報ですが、3mの波で船が必ず転覆・沈没する訳ではないので、やはり「酔いそうだからやめておこうか」と考えるかどうかが大きいと思います。
それでも、乗船見合わせを決めるのはなかなか難しいですね。
北海道の中でも端のほうにある知床まで行くにはそれなりの時間を要しますので、どうしても知床へ行きたいという強い希望があっての旅行でしょう。
知床遊覧船の知床岬コースは事故当時で大人一名8800円とのことですので、結構な金額。旅行中の目玉企画ですよね。
人生でそう何度もあることではないし、「知床旅情」の歌に出てくる知床岬まで一度は行きたいと思ったりして、当然楽しみにしていたはずです。
旅行日程も決まっていて、その日に乗れなければもう一度来る機会はないかも知れない。
おまけに出航時刻ごろの港内は波も静かで、荒天のイメージがわきにくい。
船長に聞いたとしても、おそらく「『条件付き運航』なので、危なくなる前に引き返しますから」と言われる。
このような状況を踏まえると、やはり乗ってしまったかも知れませんし、それを自己責任と言うのは酷すぎます。
乗船客にはどうしようもなかったおそれが高いです。
どうしようもないことも起きる中で生きてきた人生を自分史ムービーで映像化しませんか
この事故のように最悪の結果になってしまうこともありますが、人生が終わるほどのことでなくても、誰しも時にはどうしようもないことが起こりますよね。
そんな苦しい時も耐えながら、なんとか生きていると思います。
人生の山も谷も含めて、自分史ムービーで映像にして記録しておきませんか。
心の中から外に出すことによって、少し楽になることもあるかと思います。
当舎のサンプル映像B(「サンプル映像」ページでご視聴いただけます)の作品タイトルは「ケ・セラ・セラ」。
お客様が好きな言葉だそうで、「(人生は)いくら頑張っても、なるものはなるし、ならないものはならない」とおっしゃっています。
良い出来事もあり、時にはどうしようもないことも起こってきた。
ある意味、多くの方とそれほど変わらない人生なのかも知れません。
それでも「決して、あきらめているわけじゃないですよ」という言葉が、私の心にはとても刺さりました。
このお客様に自分史ムービーをお作りいただき映像で記録していただいて良かったと、私も思いました。
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吉川 友清
一分一厘舎代表。
映像作家、終活ライフケアプランナー・防災士・援農ボランティア。
2021年3月より自分史動画・終活動画制作専門の「My History Video」サービスを提供中。
制作・撮影・編集ほか、事業全般を担当している。