終活世代の健康趣味・街道歩き 第8回:大山街道 

大山街道・大山山頂

 終活を始める年令に決まりはありませんが、定年後から80歳過ぎくらいまでのお歳でまだまだ元気な方々をあえて終活世代と呼ぶなら、その皆さまの健康維持に最適な趣味のひとつが街道歩きではないかと思います。
一人でもふらっと日帰りのお出かけができて、電車賃程度の出費で済み、まとまった距離を歩いて足腰を鍛えられ、単発ではなく何回かの連続企画となる趣味。
そのような街道歩きはまさに最強の趣味ではないでしょうか。

 このシリーズでは、関東・甲信で日帰り可能な範囲の街道歩き情報を何回かに分けてお届けします。
(当舎の所在地が神奈川県のため関東・甲信の情報となりますことをご容赦ください)

 第8回は大山街道です。

 大山街道は相模国大山の関東総鎮護・大山阿夫利神社へ詣でるための道で、関東各地から大山までいくつものルートの「大山道」があったそうです。
代表的な大山道は江戸から大山までの70kmで、ここではこの道を大山街道としています。

 五街道のように有名な幹線道路ではないので、大山街道を(大山そのものさえ)知らない方は全く知らないですね。私も以前はそうでした。しかし知れば知るほどおもしろいです。

 江戸っ子の間では、往路で大山詣りを行い、帰りは江の島・鎌倉などを回って観光する3~4日の旅行が大流行したそうです。
仲間内で積立金を蓄えて、旧暦7月頃の山開きの時期に毎年交代で行っていたとのこと。
その様子は落語「大山詣り」にも描かれています。

 解説本はいくつかありますが、「ウォークマップ ホントに歩く大山街道」の改訂新版が最近出たようです。
私はこの本の旧版を持っていますが、歩行地図に坂の緩急が記号で示してあって便利です。
普通の歩行地図を入手するだけでよければ、個人サイトの歩行記を検索すれば見つかると思います。

 起点は赤坂見附にある赤坂御門です。今は跡地に一部の石垣だけが残っています(下の写真)。
いろいろ調べて知ったのですが、江戸時代は出発前に墨田川両国橋の近くにある石尊水垢離(みずごり)場で川に入り、「懺悔懺悔、六根清浄、おしめにはったい、金剛童子、大山大聖不動明王、石尊大権現、大天狗、小天狗。」と唱えながら身を清めて、道中無事と悪病退散を願ったとのことです。
折角の大山詣りの機会ですので、私も初日は朝一番で両国橋の水垢離場跡へ行ってこれを唱えてから、電車で赤坂御門へ移動したのでした(笑)。

赤坂御門跡

 赤坂見附から青山通り(国道246号線)を進みます。
伊勢原で大山への登山コースに折れ曲がるまで、大山街道は246号と付いたり離れたりしながら並行して進みます。
というよりも、246号のこの区間は大山街道のうねうね道を車のために直線化して道路開発したものですね。

 青山から渋谷を過ぎるまで、ハイキング姿が不似合いな大都会の風景が続きます。 
とくに宮益坂を下りて渋谷スクランブル交差点を通過し道玄坂を上るところは人がすごく多いですが、街道歩きなんてしている人はいません(笑)。

 三軒茶屋から世田谷通りに入り、そのあと用賀に向かうあたりはもう住宅地です。
昔は二子玉川駅近くの多摩川に「二子の渡し」があったそうですが、代わりに東急田園都市線の真横にある二子橋を渡ります。
溝の口、鷺沼、江田、青葉台と、田園都市線に沿って住宅街を進みます。
これらの川崎市北部~横浜市北部の地域は私が長年住んできたところで、狭い道でも結構知っているのですが、今は住宅に挟まれた名前もない生活道路が実は大山街道だったと、驚きの連続でした。

 南町田、鶴間を越えて相鉄線のさがみ野方面へ。
海老名ビナウォークをかすめて相模川に出ます。昔は「厚木の渡し」があったそうですが、一番近くのあゆみ橋を通って厚木に入ります。
川に近い道をいったん南下するルートで愛甲石田、伊勢原へ。このあたりは畑や野菜の直売所もある、のどかな風景です。
愛甲石田の駅前で、解説本に書いてあった幸月堂の愛甲亀最中を買って食べました。
栗が入っている最中で、記載通り本当に旨かったです。

 246号をまたいで大山方面へ進み、ここから246号と離れていきます。
太田道灌のお墓を過ぎるとだんだん山あいの景色になり、道も狭くなってきます。
いよいよ近づいてきました。

 名物のひとつが大山豆腐。
車で行くと気づかないような狭い旧道「とうふ坂(とうふ参道)」があります。
昔の参詣者が栄養と水分補給のためこのあたりで豆腐を買い、手のひらに乗せてかじりながら登山道に向かったとのこと。
広告効果のあるネーミングなので、さぞやここで豆腐が売れたのでしょうね。

 大山第二駐車場があり、その近くに「大山ケーブル」バス停があります。車やバスはここまでしか入れません。
大山登山は時間も体力も使うので、最終日は伊勢原駅からバスでここまで来て、歩行をスタートしました。
なお、いちおう登山とは言っていますが、靴は街道歩き用で十分です。
山道で傘をさすのは大変なので、雨が心配なときはレインウェアが必要になります。あと、ストック(トレッキングポール)が必要な方はご用意ください。

 土産物屋や旅館が並ぶ階段状の「こま参道」があります。また広告ネーミングです。大山名物の独楽もここでたくさん売れたのでしょうか。
ケーブルカーの麓側の駅「大山ケーブル駅」がありますが、徒歩組はその手前左の階段を上がって、いよいよ大山登山の開始です。

すぐに男坂・女坂に分かれます。
男坂の入口にある長い急階段を見るとゾッとしますが、幸いなことに途中の大山寺(大山不動)へ行けるのは女坂だけなので、女坂へ。
女坂の場合は、中腹にある大山阿夫利神社下社まで標準40分です。さらに下社から山頂の本社までは標準90分とされています。
歩いていくと「女坂の七不思議」という場所が順番に出てきます。参詣客を楽しませる一種のアトラクションですね。
大山寺のご本尊は鋳鉄製のお不動さんだそうで、御朱印には「大山鐵不動明王」と書かれています。
女坂とは言っても結構急な登りです。やっとの思いで男坂と合流して大山阿夫利神社下社へ到着。
売店や休憩所が立ち並ぶ広い境内で、ケーブルカーで来た観光客は頂上まで行かない人が多いし、「ここが目的地」感がすごいです。
疲れもあって、この先さらに90分も登ることを考えると気が重くなります。
意を決して下社左手の本坂から登山再開です。
途中、一丁ごとに「○○丁目」という石碑があり、その数字がひとつずつ増えていくのを励みに登ります。
山頂は28丁目。かなりきついです。
富士見台、ヤビツ峠分岐を過ぎてさらにひと踏ん張りすると、ようやく山頂(1252m)へ到着。
いや、きつかった。でもこのあたりで一番高いところなので、すばらしい景色です。
大山阿夫利神社本社に参拝して大山街道歩きの完了を報告します。

 山頂にある売店では食べ物・飲み物を売っています。
店先で豚汁を作っていたので買いました。太くて柔らかいゴボウなど具材がゴロゴロ入っていてすごく旨い豚汁で、疲れた体にうれしく、本当に癒されました。またここへ来たときはリピ確定です。
そういえば、ビールの段ボール箱など重そうな荷物を背負子でたくさん背負った男性が登っていくのを登山道で何人か見ました。
すごいなと思って見ていたのですが、この売店にも運んでいたんでしょうね。本当にご苦労さまです。

 大山街道は距離がそれほど長くない割りには、大都会→住宅地→田園風景→山あい→登山道と景色がグラデーションのように変化していく魅力があります。
ただの街道ではなく、クライマックスは登山、大山山頂がゴールという特殊な設定で、歩きごたえも十分にあります。

江戸時代の人と同じように歩いて「現代の大山詣り」をするというのも楽しいです。
行き帰りは地下鉄・東急・相鉄・小田急などが近くを通っていて、首都圏の方は交通至便です。
この街道もぜひチャレンジしていただきたいと思えるおすすめコースです。


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